メリアと怪盗伯爵
メリアはなんにせよ、今エドマンドがいるあの部屋から退出できたことでほっとしていた。あのピリピリした空気の中で長時間居続けることは、メリアにとっては拷問でしかないだろう。
「デイ・ルイスの動きは俺が引き続き探りを入れておく。女王陛下の耳にこの話が入れば、俺達もただでは済まない・・・」
「ああ、分かってるよ。この話はエドと僕の二人の間に止めておこう」
ついつい話に夢中になり、二人の前には新しく注がれたティーがすっかり冷めたまま置かれていた。
エドマンド僅かにそれを目を細めて見つめたが、特にメリアについて何も触れようとはしない。
「ティーが冷めてしまったね。彼女を呼ぼうか」
パトリックが何気なく呼び鈴に手を伸ばそうとしたとき、エドマンドはすっと立ち上がった。
「いや・・・。俺はそろそろ失礼する」
パトリックは呼び鈴を慣らすのは止め、自分も席を立った。
「そうかい? それじゃあ、見送るよ。君が来たときは出迎えもしなかったから」
エドマンドは、ジャケットを羽織り直し首を小さく振る。
「結構だ。お前はここでまたスカーフ選びに勤しむといい」
パトリックは肩を竦め、苦笑を浮かべた。
「やけに今日は機嫌が悪いな・・・。何か気に喰わないことでも??」
普段から無愛想なエドマンドのほんの僅かな違いを察知できるのは、長年彼と付き合ってきたパトリックだからこそだ。