メリアと怪盗伯爵
「なに?」
ピクリと眉を動かし、エドンマンドがパトリックの目を見返す。
「あれ、違った?」
にこにことパトリックはドアノブに手をかける。
「別に何も無い。俺はいつもこんなだ」
愚痴るように、エドマンドが呟く。
「いーや、違うね。明らかに君は不機嫌だ。顔にそう書いてある」
黙ったままパトリックがエドマンドの為に開いたドアに目を向けたまま、エドマンドは何事も無かったかのように歩み始める。
「俺の顔など観察していないで、お前も少しは剣を嗜むなり何かすればいい」
パトリックは茶の髪をぽりぽりと掻き、にへらと笑ってごまかす。
「僕は平和主義者だ。剣なんて物騒なものは振り回さない」
パトリックを追い越し様に、エドマンドが呆れたように振り返った。
「いくら平和主義者と言え、伯爵の地位にありながら剣の嗜みが無いなど、お笑い草だぞ」
エドマンドが部屋の外へ出たのを確認すると、自らもその後に続く。
「それでもいいさ。剣は争いの道具だろ? 君みたいに、戦に何度も出陣する予定は今のところ無いしね」
剣と文と教養は、この国の紳士が誰しも持ち合わせていなければならない三大要素だった。けれど、その一つである剣の腕を、パトリックは持ち合わせていないことになる。
「今のところはな・・・。だが、いずれ嫌でも戦に駆り出される時代がやってくる。それも、そう遠くない将来にな・・・。その時、困るのはお前だぞ、パトリック」
エドンマンドはそんなパトリックが心配でならないらしい。