メリアと怪盗伯爵
なるべく清潔な布を探し、メリアは水桶をトレーに載せ、再び地下の部屋へと戻った。
薄暗がりの中、闇の騎士は上半身全ての衣服を脱ぎ去り、ソファーに腰掛けていた。
メリアは顔はかあっと火照るのを感じ、ぱっと視線を蜘蛛の巣のかかった隅に逸らす。
「こ、ここに置きますね・・・」
メリアは、不自然な体勢で彼の前にある小さな木箱の上にトレーをそっと置いた。
「ああ・・・。すまない・・・」
彼は脱ぎ去った上着から小さな瓶を取り出し、トレーの上の布を一枚手に取った。
恥ずかしさで顔が真っ赤になるのを感じながらも、メリアは恐る恐る彼の行動に目を移す。
彼が手にしていたのは、ウィスキーボトル。
そして、脇腹に受けた大きな刺し傷・・・。
「ひ・・・ひどい傷・・・。一体そんな傷どうやって・・・」
あまりの痛々しさに、メリアは思わずそう呟いてしまっていた。
「よくあることだ・・・」
彼は決して仮面を取ろうとはしない。
仮面をつけたまま、彼は傷にウィスキーを惜しげも無く流しかけた。
あの傷にウィスキーの強烈なアルコールは、ひどい痛みを催す筈だ。仮面の下の唇から、ぐっと痛みに堪え食いしばる歯が僅かに覗き、関係の無いメリアさえも肩を強張らせた。