メリアと怪盗伯爵
「へ・・・??」
予想もしていなかったエドマンドの言葉に、メリアが驚き顔を上げる。
「悪かった。まさかクビになるとまでは考えていなかった・・・」
いつの間にか前を向いていた筈のエドマンドが、メリアと向かい合うように身体を反転させていた。
表情はあまり変わら無いが、いつもの無愛想な目が僅かに申し訳なさそうに見えなくもない。彼が感情を外へ出すのが得意でないということに、メリアはこの時初めて気が付いたのだ。
「いいえ、そんな・・・。クビになったのは、自分の未熟さゆえです。ランバート様のせいではありません」
慌ててぶんぶんと首を振り、メリアは否定した。
あの日、確かにエドマンドに対して怒りに近い感情を抱いたこともあったが、今考えると、全てあれはメリア自身に問題があった。
大切な客人が屋敷を訪れたにも関わらず、考え事をして難しい顔で接客していたのことも、そして、注意した客人に向けてむっとした顔を向けたことも然り。それも、自分よりもずっとずっと身分の高い客人に向けてだ。
「あの日は、本当に無礼なことをしてしまって・・・。クビになって当然の身です。侍女失格ですよね・・・」
そう呟いたメリアは、余計なことまで口走ってしまったことに、はっとして口を押さえた。