メリアと怪盗伯爵
「夜会にはお一人ご出席下さいませ。わたしは馬車でデイ・ルイス侯爵家の屋敷近くまでお見送りしますから」
だだ広いモールディング家の屋敷。
いたるところに、彼の父が生前に集めたという絵画が壁に架かっている。
きっと植物の好きな人物だったのだろう。どれも薔薇や百合や綺麗な草木の絵ばかりだ。
「これは僕の我侭だろうか・・・、僕は君と夜会に出席したいんだ。君といる時間は楽しい。つまらない社交的で表面的な夜会でも、君と出席すればきっと素敵な夜会になる気がするんだ」
この屋敷の広さに、ここで働く人々の数はあまりに少なすぎるようにも感じる。夕焼けの日差しが、窓から差し込み、少し淋しそうなパトリックの横顔を照らしていた。
(この人は、きっとすごく孤独な時間を過ごしてきたのかもしれない・・・)
メリアは俯いて足元を見つめた。
専属侍女として、以前の屋敷で支給されていた侍女服や靴よりも、ずっとずっとデザインも生地も高いものを着させてもらっているメリア。この靴も、パトリック自らが特注で取り寄せた、とても侍女ふぜいが履くことのできないような代物だ。
「お話の途中に口を挟んでしまい申し訳ありません・・・」
二人の背後から、にょきっとどこから現れたのか、セドリックが片眼鏡を光らせて現れた。