メリアと怪盗伯爵
ほとんど男性と関わることの無いまま生きてきたメリアにとって、闇の騎士のこの行動は、あまりに刺激的すぎたようだ。
心臓がバクバクと高鳴り、顔がみるみる赤くなるのを感じ、メリアはぱっと手を引っ込め顔を覆い隠した。
そんなメリアに、闇の騎士は不思議そうに小首を傾げる。
「どうかしたのか?」
メリアはふるふると首を横に振り、「いえ」と短く答えた。
「君にはとても感謝している。ありがとう・・・。ついでにあと、もう一つだけお願いをしても・・・?」
メリアはきょとんと仮面ごしの彼を見つめ返した。
「痛みが酷くてね・・・。薬を服用したい。グラスに水を一杯汲んできてはくれまいだろうか・・・?」
「ええ、分かったわ。すぐに持って来る」
メリアはくるりと身体を反転させると、パタパタと慌てて部屋から出て行ってしまった。
闇の騎士は、一人になった物置き部屋で、ぽつりと呟いた。
「ああ・・・。そういえば君の名前を聞いていなかった・・・」