メリアと怪盗伯爵
「何か髪に特別なことをしているの?」
真剣にメリアに問いかけてくるパトリックに、メリアは戸惑うように小さく首を横に振った。
「癖っ毛なんです・・・。結んでいないと、あちこち向いてしまって・・・」
恥ずかしいものでも見られたかのように、メリアは急いで髪を束ねようとする。
「そんなことない、君の髪は素敵だよ。そうだ、これを・・・」
パトリックは、胸に挿していたオレンジ色の小さな花を彼女の髪にすっと刺してやる。
「大丈夫、君はどこからどう見ても完璧な女性だよ。大丈夫、僕がエスコートするから」
パトリックは小さくウィンクをする。
馬車が停車したようだ。どうやらデイ・ルイス侯爵の屋敷に到着したらしい。
メリアは、生まれて初めて褒められた髪に、今だ顔を真っ赤にしながらパトリックのエスコートを受けて馬車を降りた。
慣れない高いヒールの靴で、ぐらぐらと足元がぐらつく。
「ようこそおいでなさいませ、パトリック・モールディング伯爵。さ、どうぞこちらへ」
案内係りに連れられ、二人はゆっくりと屋敷の中に足を踏み入れる。
屋敷というよりは、まさに城のような造り。
噴水の上がる中庭で、メリアは立ち聳えるデイ・ルイス伯爵家の屋敷にゴクリと思わず唾を飲み込んだ。