メリアと怪盗伯爵
「どうぞ、ごゆっくり・・・。よい夜会となりますよう・・・」
迎えてくれた男が屋敷の入り口で深くを頭を下げ、二人がそこから入ってゆく姿を見送っている。
(な、なんだか申し訳ないわ・・・。私なんて、ただの侍女だというのに・・・)
主である筈のパトリックに腕を取られ、メリアは慣れない靴でなんとか歩みを進める。
「胸を張って。みんな君を見てる」
全神経を足元に集中していたメリアははっとして顔を上げた。
煌びやかな装飾に、大勢の紳士や淑女達で賑わう会場。メリアが見たことも無い光景が彼女の目の前に広がっていた。
知らない世界に、メリアは感動し、息を飲んだ。
「どの人達も、なんて素敵なのかしら・・・」
綺麗な女性達の姿を見つめながらメリアは思わずそう口に出していた。
「ご機嫌よう、モールディング伯爵」
ふと前から満面の笑みを浮かべた女性がこちらに歩み寄って来た。
「やあ、ミセス・ディアナ」
メリアは、何気無く彼女に視線をやった。
泣き黒子の印象的な女性で、明らかに彼女はずっと年上の女性だと分かる。
胸元の大きくあいたパープルのドレスが、大人の雰囲気を醸し出していた。
「あら、こちらは?」
腕を取るメリアの存在に気付き、ミセス・ディアナはパトリックに訊ねた。