メリアと怪盗伯爵
「こちらはメリア。今夜の僕のパートナーです」
じっと目を細め、ミセス・ディアナが僅かに笑ったようにも見えた。
「あら・・・。今夜はわたしをダンスには誘ってはくれないみたいね」
彼女の言い方に引っかかりを覚え、メリアは少しむっとしてパトリックの横顔を見上げた。
(パトリック様ったら、こんな年上の女性にも・・・??)
「はじめまして、ディアナ・G・ウェーバーです」
差し出された綺麗な手を、メリアはそっと握り返す。
「はじめまして、メリアと言います・・・」
馬鹿にしたような目で、ミセス・ディアナは付け足した。
「とても可愛いらしい方ね。一体どこの家の方かしら?」
パトリックはにこりと微笑み、
「僕は貴女がきっとこのロンドローゼでもっともセクシーな方かと」
見え透いたお世辞だと分かってはいても、彼女は少し気を良くしたのか、それきりメリアの出身を問い質すことはしなかった。
「まあ、モールディング伯爵ったらお上手だこと。ではわたくしはそろそろ」
ミセス・ディアナがドレスを持ち上げ、挨拶を送った。
「ええ、ではまた。よい時間を」
パトリックは再びメリアの腕を取り、歩み始める。
メリアは何食わぬ顔でさっきと変わらない表情で、擦れ違う貴族達に愛想を振り撒くパトリックの横顔をもの言いたげに見つめた。
「??」
そんなメリアに気付いたようにパトリックは目をパチクリとまたたかせた。