メリアと怪盗伯爵
夜会会場は華やかに賑わい、パトリックがメリアの腕を取りその中を進み行くのを、誰もが振り返っていた。
ほんのり顔を赤らめた美しく着飾った女性達が、パトリックの姿を目にした途端呆けたように見つめている。
お喋りに夢中になっていた女性達でさえ、話しを中断する始末だ。
「ねえ見て! モールディング伯爵よ」
ひそひそとそんな声が聞こえ、メリアはパトリックの予想以上の人気ぶりに戸惑っていた。
横目で彼の様子を見物してみると、パトリックはそんな女性達の反応を気にした素振りも無く、柔らかな笑みを浮かべたまま、通り過ぎる人々に「お久しぶりですね、ミセス」
など、愛想を振りまいている。
(・・・・・・)
なるほど、とメリアは心の中で呟いた。
セドリックがぼやいていた言葉を思い出したのだ。
きっと、こんな風に彼は今までずっとこの完璧で真っ白い笑みで数々の女性達を虜にしてきたのだろう・・・。
そんな折のことである。
「モールディング伯爵」
低く大人びた男の声がかかり、二人はふと振り返った。