メリアと怪盗伯爵
「モールディング伯爵、私の妹が君が訪れるのを今か今かと首を長くして待っているよ」
デイ・ルイスが広間の奥を振り返り見た。
ずっと奥に、今夜の主役であろう人物が、祝福の声を受けながら招かれた客人達に挨拶を交わしている姿が見える。
デイ・ルイスと同じ真っ黒な黒髪。
同じく小じんまりとした彫りの深い神秘的な顔立ち。
動きの全てが可憐で、そして美しさを放つ麗々しい女性だった。
(なんて綺麗な人なのかしら・・・)
遠目ではあるものの、メリアは同じ性別である彼女に思わず見とれてしまう。
「ええ、この後彼女にも挨拶に伺うつもりです」
パトリックはデイ・ルイスにそう返答した。
「では、私は他の客人への挨拶を先に済ませてしまうよ」
デイ・ルイスに頷き、パトリックは「また後程」と、会釈する。
「ミス・メリア。貴女にとって今夜の夜会が素敵な場となりますよう」
メリアは、またペコリと彼に頭を下げた。
彼が去った後、パトリックはメリアの腕を取り直し、再び歩み始めた。
何も言わない彼に違和感を覚え、そっと彼の表情を盗み見る。
いつも柔らかい笑みを浮かべているパトリックの顔に、笑顔が消えていることにメリアは驚いた。