メリアと怪盗伯爵
「僕が連れて来たんだ。どうだ、すごく可愛いだろう?」
状況を飲み込めず、おどおどとパトリックの目を不安そうに何度も見上げてくるメリアに、パトリックは思わず噴き出しそうになる。まるで、檻から出て初めて外の世界へ繰り出した子猫のようだ。
「お前、正気なのか・・・!? ここはデイ・ルイス侯爵の屋敷だぞ・・・?? しかも、彼女は・・・」
小声でエドマンドが抗議しようとしたところを、パトリックは慌てて彼の口を塞ぐ。
「しっ。そのことはここではタブーだ」
そう、今はこの美麗な伯爵達に夜会に訪れた誰もが注目している。
下手なことを口にして、誰かに聞かれてでもすれば、大騒ぎになり兼ねない。
「・・・なら、なぜここに彼女を連れて来た」
不機嫌な表情を浮かべ、エドマンドは呆れたようにパトリックに問うた。
「ただ、彼女を連れて来たかっただけだよ。大丈夫、全て僕が責任をとるから」
はあ、と溜息をつき、エドマンドはメリアに言った。
「君はここを出た方がいい。すぐに帰れ」
メリアは戸惑ったようにエドマンドの呆れ返ったような目を見返した。
そして初めて気が付く、彼の目が、綺麗な翡翠色をしていることを。
「おいおい、エド。それはあまりにも酷いんじゃないか?」
「酷いだと? こんな不似合いな場所に連れて来て、彼女が傷つくかもしれないということを、少しは考えて行動したのか」
冷たいエドマンドの言葉。
パトリックはじっと黙ってエドマンドの利発そうな顔を見つめた。