メリアと怪盗伯爵
「あの・・・、大丈夫です。ランバート伯爵の仰る通り、わたしにはこの場はあまりに不似合いです。だから、やっぱり戻りますね」
メリアはペコッと二人に頭を下げ、早足で広間を出て行こうとする。
「メリア! 待ってくれ」
慌ててその後を追おうとするパトリック。が、その手を何者かに掴まれ、行く手を阻まれてしまう。
「パトリック」
彼は掴まれた手を返り見た。
キャサリン・デイ・ルイス。
このデイ・ルイス侯爵の妹であり、今回の夜会の主役だ。
そして・・・、パトリックを慕っていた女性の中の一人・・・。
はっとしてパトリックは早足で広間から出て行くメリアの後姿を心配そうになんども振り返る。
遠ざかるふわりとした赤毛が、ひどく淋しそうだ。
「キャサリン・・・悪いが今、急いでいて・・・」
「・・・少し、話がしたいの」
真剣な眼差しで、キャサリンはパトリックの手を離そうとしない。
「後でもいいかい? 今はちょっと・・・」
「いいえ、今よ。・・・わたしは貴方が現れるのをずっと待っていたんですもの」
そんなパトリックの様子をすぐ近くで見ていたエドマンドは小さく溜息を溢した。
「代わりに俺が行こう」
申し訳無さそうにパトリックが目で合図し、エドマンドはパトリックの代わりに彼女の後を追った。