メリアと怪盗伯爵

(何をやっているの、メリアったら! 所詮ただの侍女のわたしにはこんな夢のようなドレスも、魔法の靴も馬車も、全部幻なのよ。わたしはおとぎ話のようにお姫様には決してなれないってことは、初めから分かっていたことじゃない・・・。なのに、どうしてのこのことこんな場違いな場所へやって来たの・・・??)
 メリアは惨めで馬鹿な自分に腹が立ち、思い切り自分をぶってやりたい気分だった。

「痛っ・・・!」

 慣れない高いヒールの靴で、メリアの足にどうやら靴擦れができてしまったようだ。
 屋敷の入り口を飛び出すと、メリアは脇の石段に座り込んだ。

 屋敷では、華やかな美しい本物の令嬢達が夢のような一時を過ごしている。
 窓から洩れる明かりは、メリアを余計に惨めな気持ちにさせる。

 堪らずに靴を脱ぐと、踵に薄っすらと血が滲んでいた。
 痛くて、もうこの靴を履いては歩くことなどできはしないだろう・・・。

(ここから歩いて帰ったら、一体どれくらいかかるのかしら・・・)
 ぼんやりとそんなことを考え、メリアは裸足のままそこから立ち上がろうとした。


「足を痛めたのか?」

 突然頭上から降ってきた声に、メリアは目を見開く。

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