メリアと怪盗伯爵

「ランバート伯爵・・・?」
 メリアを覗き込むように、エドマンドがそこに立っていた。

「な、なんともありません。大丈夫です」
 メリアは再び靴に足を入れると、痛みで顔を顰めながら立ち上がった。
 が、はやりその足ではうまく立つことができず、ふらふらと足元をふら付かせる。

「慣れない靴など履くからだ。見せてみろ」
 エドマンドはメリアをもう一度石段の上に腰掛けさせる。
 半ば強引に靴を脱がせると、その痛々しい踵を無表情のまま見つめた。
 
(お、怒ってる・・・?)
 びくびくしながらメリアはエドマンドの顔を盗み見る。
 こんなに近くでじっくりと彼の表情を見たのは、恐らくきっと初めてのことだ。

 すっと通った鼻筋や、男らしく隙の無い目。俯き加減の彼のシャープな顔に、なぜかメリアはドギマギする。彼は決してパトリックのように優しく微笑んだりはしないし、親切な言葉をメリアに掛けたりはしない。それに、取り繕った言葉も、嘘もきっと口にはしないだろう・・・。
 けれど、どういう訳かメリアはパトリックには感じたことの無い、妙な気持ちを感じていた。

「・・・馬車を呼んで来る。君はここでしばらく座っているといい」
 彼はどうやら怒っている訳では無いらしい。
 すっくと立ち上がり、彼は再びメリアから離れた。
 
 メリアは兎に角少しほっとして、まだドギマギしたままの胸をきゅっと押さえた。
 彼の表情を読むのはひどく難しい・・・。そして、彼の考えていることを知ることも・・・。
< 82 / 220 >

この作品をシェア

pagetop