メリアと怪盗伯爵
「ランバート伯爵・・・?」
メリアを覗き込むように、エドマンドがそこに立っていた。
「な、なんともありません。大丈夫です」
メリアは再び靴に足を入れると、痛みで顔を顰めながら立ち上がった。
が、はやりその足ではうまく立つことができず、ふらふらと足元をふら付かせる。
「慣れない靴など履くからだ。見せてみろ」
エドマンドはメリアをもう一度石段の上に腰掛けさせる。
半ば強引に靴を脱がせると、その痛々しい踵を無表情のまま見つめた。
(お、怒ってる・・・?)
びくびくしながらメリアはエドマンドの顔を盗み見る。
こんなに近くでじっくりと彼の表情を見たのは、恐らくきっと初めてのことだ。
すっと通った鼻筋や、男らしく隙の無い目。俯き加減の彼のシャープな顔に、なぜかメリアはドギマギする。彼は決してパトリックのように優しく微笑んだりはしないし、親切な言葉をメリアに掛けたりはしない。それに、取り繕った言葉も、嘘もきっと口にはしないだろう・・・。
けれど、どういう訳かメリアはパトリックには感じたことの無い、妙な気持ちを感じていた。
「・・・馬車を呼んで来る。君はここでしばらく座っているといい」
彼はどうやら怒っている訳では無いらしい。
すっくと立ち上がり、彼は再びメリアから離れた。
メリアは兎に角少しほっとして、まだドギマギしたままの胸をきゅっと押さえた。
彼の表情を読むのはひどく難しい・・・。そして、彼の考えていることを知ることも・・・。