メリアと怪盗伯爵
「ふう」と一つ息をついたメリアの耳に、「くくっ」とどこからか笑いを堪える声が聞こえたきた。
怪訝に思い、きょろきょろと周囲を見回すメリア。
その度に、赤毛がふわふわ宙を舞う。
「ミス・メリア。こっちですよ」
ふと声のした方を振り向くと、二回の窓から見覚えのある男が見下ろしていた。
「貴方は・・・」
「先程は十分に挨拶もできずに申し訳ありませんでした」
神秘的な彼の顔は、とても印象的で一度見ればきっと忘れることは無い顔だ。
アドルフ・デイ・ルイス侯爵。この夜会の主催者その人だ。
「盗み見などするつもりは無かったのですが、たまたま風に当たろうと窓を開けたところ、貴女の姿が見えたもので・・・」
メリアは、靴を脱いだままの足をドレスに慌てて引っ込める。
「いつ声をかけようか迷っていたところ、ランバート伯爵に先を越されてしまったようです」
随分前から頭上から情けない姿を見られていたことを知り、メリアは真っ赤になって俯いた。
「貴女は・・・、なんというか、不思議な女性ですね」
「は・・・?」
驚いてデイ・ルイスを見上げたメリアは、彼の吸い込まれるような黒い目に釘付けられてしまった。