メリアと怪盗伯爵

「・・・ねえ、パトリック・・・。最後に一つだけ教えてくださらない・・・?」
 キャサリンはパトリックが差し出したハンカチーフを受け取ると、静かに訊ねた。

「わたしを受け入れられない理由は、貴方に愛する女性がいるからなの・・・?」

 少し驚いた顔をして、パトリックは首を小さく横に振った。

「・・・そう・・・」
 俯いて、キャサリンはそのまま立ち上がった。
 何も言わず、パトリックにハンカチーフを手渡すと、彼の隣をすり抜けて行った。

 石段の上で屈み込んだメリアの後ろから、完璧で有能な男が現れる。
 エドマンド・ランバート伯爵。



「ほら見ろ、エド。素直じゃないんだから・・・。君も同じじゃないか」


 夜風に乗って、パトリックの声が小さく消えた。
 泣いているだろう彼女のところに、信頼できる友人が駆けつけてくれたことへの感謝と、それと同時に、自分が一番にあの場へ駆けつけられないことへの苛立ちを感じた。






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