メリアと怪盗伯爵
(パトリック様ったら、また余計な心配でもなさっているのかしら・・・??)
調理場に飛び込んで来た時のように、彼がまた妙な不安を抱え込まないようにと、メリアはそのことに気付かない振りをすることに決めていた。
「さ、パトリック様。早くランバート伯爵を迎えに行って差し上げて下さいな。きっと、イライラなさってお待ちでしょう」
エドマンド・ランバート伯爵は生真面目な性格で、時間にはなかなか煩いということが、ようやく最近になってメリアにも分かってきたのだ。
「そうだね・・・。行って来るよ・・・」
淋しげに微笑み、パトリックは馬車を出すように指示する。
・・・が。
一旦出発して動き始めた馬車が、数メートル先で停車し、中からパトリックが”しまった!!”という形相で駆け降りて来たのだ。
「パ、パトリック様・・・?」
「メリア!! 僕はとんでもない忘れ物をしていた!!!」
慌てて屋敷へ戻ろうとするパトリックを、メリアが引き止めた。
「何をお忘れになったのです?? わたしが取って参ります」
そう言ったメリアに、パトリックが困ったように鼻をかいた。
「いや・・・、忘れたのは持ち物では無いんだ・・・」
「?? それでは、一体何をお忘れに??」
パトリックは懐中時計の針を気にしながら、焦ったようにメリアに打ち明けた。