メリアと怪盗伯爵
「実は、アダム宛てに大切な手紙を預かっていてね・・・。今日中に彼に渡すよう頼まれていたんだけれど、この通り、僕は今からエドと出掛けなきゃらない・・・。エドには悪いが、今から先にアダムの屋敷へ向かってから出発することにするよ」
そう言って、屋敷へ入ろうとするパトリックを、メリアが再び呼び止めた。
「パトリック様、わたしが代わりにお届けします」
驚いたようにパトリックがメリアを凝視し、「え?」と思わず聞き返した。
「その手紙を、アダム・クラーク男爵にお渡しすればいいんですよね?」
「でも、君はあの屋敷をクビに・・・」
優しいパトリックのことだ、きっとメリアがあの屋敷へは行きづらいと心配しているのだ。
「わたしは平気ですよ? 今となってはもう過去のことです。今は、こんな素敵な場所でパトリック様のお世話をさせていただいて、とっても幸せなんです。たまにはお役に立ちたいんです」
パトリックはキラキラしたメリアの瞳を見て、言葉に詰まる。
できることなら、彼女をあの屋敷へはやりたくないと密かに感じたのだ。
「けれど、もしかすると君が嫌な思いをするかもしれない・・・」
にっこりと笑い、メリアはパトリックの背をぐいと押した。
「大丈夫です! さ、パトリック様は早くランバート伯爵のお屋敷へ!」
パトリックは戸惑ったように、「いや、でもメリア・・・」と言いながら反対していたが、メリアの強い気持ちに根負けし、とうとう最後は彼が折れた。