Alice in the crAzy world


とりあえずあたしはその懐中時計を拾い、その子に向けて差し出した。


「これ、君の?」

「うん!」


ありがとう!と時計を受け取りながら少年は笑った。

どうしてこんな、小学生か中学生くらいの子がいるんだろう。


なんか、すっごい目がくりくりしてて可愛いけど……。

って、今はそんなことより。


あたしは一息ついてから口を開いた。



「ねえ、君は誰?」

「アリスは忘れちゃったんだね、僕らのこと」

「え?」


彼の声が少しだけ低くなって悲しそうに見つめてくる。

あたしが何となく罪悪感に苛まれていると、彼はすぐにパッと笑顔を浮かべてあたしの手を握った。



「僕は白ウサギのフィン!君はアリスだよねっ」



小首を傾げながらそう言う彼を、あたしは戸惑いながら見つめた。

白ウサギ、って……?


いやいや、それよりも先に否定しなければ。



「えと、フィン君……?あたしはアリスって子じゃないよ?」


「ううん。君はアリス」


少しも疑うことなく、フィン君はあたしの言葉に首を振った。

どうして…。



「フィン君。やっぱりあたしはアリスじゃないし、何か勘違いしてるんじゃない?」


あたしがそう言うと、フィン君は訝しげな顔をして首を傾げた。



「じゃあ君は誰なの?」

「え?あたしは……」




あたしは。




あれ?

どうしてだろう。



何で。

どうして…!





「……あたしは、誰」





震える声が、やけに耳障りに響いた。




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