Alice in the crAzy world
自分の名前。
忘れたことなど一度もなかった。
忘れるはずがない、そんなこと。
どうして……、どうして名前が思い出せないの!
「あたしは……っ!!」
半狂乱になってその場に崩れ込むあたしに、フィン君が哀れんだ声色で言葉をかけた。
「かわいそうなアリス。自分が誰かも忘れてしまったの?」
「やめて…っ!あたしはアリスじゃない!」
どうしてそんなこと言うの!?
あたしは激しく首を横に振りながら、自分はアリスじゃないと必死に言いきかせ続けた。
「もう、認めなよ」
びっくりするほど冷たい声がして、はっと顔を上げると、フィン君が笑んでいた。
綺麗すぎる、ツクリモノのような微笑み。
背筋がぞっとして、あたしは言葉を失った。
顔を青くするあたしに追い打ちをかけるかのように彼は続ける。
「どんなに否定しても真実は変わらない。
アリスは君だよ」
絶望に近い気持ちで溢れていた。
どうしても、認めるわけにはいかないのに。
弱々しく微かに首を横に振り続けるあたしの手をフィン君が取った。
「おかえりなさい、アリス」