今度はあなたからプロポーズして
「勇気というのは、
なかなかけったいなやつでのう
誰しもが持っておるもんじゃが
いつも湧いてくるもんじゃない
本当に大切なものだと
思えたときにだけ
ドッと底から湧いてきおる。
だから、いつも自分を、
自分の思いを信じることじゃ」
賢三は自分の哀楽の経験を素に
留美に諭した。
こんな感じであったであろう
若かりし頃の賢三が
留美の脳裏にぼんやりと浮かぶ。
その想像と今を比べれば、
春江を抱きしめたその体や腕は
老いとともに衰えてはいるが、
その分、深く刻まれたシワが
賢三の言葉に重みを持たせていた。
その証拠に熱く諭すその目は
輝きを失わず
雄大な河のように
深く澄んで留美を包み込んでいる。
留美は大河に身を預けるように
思いの丈を放った。
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