今度はあなたからプロポーズして
しかも、今度ははっきりと
『その声』は
自分に掛けられているんだとわかった。
左右を見回しても
周りには自分一人しかいなかったからだ。
恐る恐る振り向くと、
ベンチにちょこんと腰掛けた
白髪の老紳士が微笑みながら
こちらを見ている。
老紳士は杖の上に両手を重ね、
かなりの高齢に見えるが、
ツイードのジャケットを着こなす感といい、
蓄えたヒゲの整え方といい、
その容姿は気品に満ち溢れていた。
紳士と呼ぶに相応しいその老人は
にこやかに留美を見据えている。
(会ったことは……ない)
面識はないと瞬時に判断できた。
今まで会ったことがないのに
微笑み続けている老紳士に
何事か?と
留美は軽く眉間にシワを寄せた。