今度はあなたからプロポーズして
「フレンチでいいかね?」
と訊く賢三に
「…ええ………はぃ……」
と留美が戸惑っていると、
「ん? どうしたんじゃ?
やはり老人とでは
気が進まんかの?」
と賢三は初めて動揺を隠せずに
不安気な目を向けた。
「いえ、その、私…
今はそんなに持ち合わせが…」
と留美が正直に懐具合を告げると
賢三は一転して
豪快に笑い飛ばした。
「ハッハッハ、
支払いなら、心配には及ばん。
年金ももらっとるしのぉ」
そう言うと、
恐縮している留美を尻目に、
賢三は躊躇なく中に入っていく。
賢三の堂々さ加減と言えば
まるで、自分の家に
帰ってきたみたいだ…
呆気にとられて
一人ポツンと残された留美は
気後れしつつも賢三の後を追って
門の中へと足を踏み入れた。