今度はあなたからプロポーズして
端から武田の急ぎたそうな表情が
目に入って、
「じゃ、またな」
と惜しくも立ち去ろうとすると
「ねぇ、恭くん、この後、
何か予定あるの?」
と、奈々子が呼び止めた。
恭一は思いがけない誘いに、
「今日?これから?
今日は…ちょっと……」
と口元を歪ませて
言わずとも都合が悪いことを
伝えた。
「あ、気にしないで…
別に何か特にってわけでも
ないし…
じゃ、また…ね」
と、奈々子は
長い髪を耳の奥にかきあげながら
慌てて撤回するように言った。
恭一はその仕草に
何気に不安にかられながらも、
「じゃ!」
と言って手を挙げて背を向けると
営業マンよろしく颯爽と出口に
向かって歩き出す。
呆気ない再会に物足りないのか
菜々子は姿が見えなくなるまで
恭一を見送っていた。