今度はあなたからプロポーズして
ビルを出たところで、
恭一は会社に向かうという武田と
別れて逆方向に歩き出した。
歩きながら、
恭一はまだ気になっていた。
恭一が不安に駆られたのは、
何か相談事があるときに、
奈々子は髪をかきあげる癖が
あったからだ。
後ろ髪を引かれるとは
こういうことを言うのだろう。
何歩か進んで恭一の足が止まった。
(菜々子は何か言いたい事が
あったんじゃないか…?)
気持ちを伝えられずに悩んでいる
高校の頃の菜々子が
寂しそうに微笑みかけてくる。
(飯…食うだけ…)
(ただ…それだけ…だ…)
思えば自分の無神経さが原因で
彼女との恋に幕を引いたのだ。
気になるのなら、
このまま見過ごすのは冷たすぎる
じゃないか
何もなければ
取り越し苦労で終わるだけだ。
恭一は葛藤に悩みながらも、
踵を返すと
足早にビルの中に戻って行った。