今度はあなたからプロポーズして
「飯食うぐらいだったら、
大丈夫だけど…」
息を切らしながらそう言うと、
「でも予定があるんじゃない?」
と嬉しいであろう気持ちを隠して
申し訳なさそうに奈々子が訊く。
「まぁ、飯だけなら大丈夫だ」
と恭一は安心させるように言った。
「本当にいいの?
…無理にはいいんだけど……」
「心配ないよ」
と恭一が改めて安心させると
奈々子は時計を見て、
「じゃ、あと少しで終わるから、
このビルを出て左に行くと、
【モンパルナス】って
喫茶店があるの。
そこで待っててくれる?」
と告げて
またエレベーターに乗り込んだ。
扉が閉まりきる前に見せた
菜々子の笑顔に
恭一はホッとしながらも
(…話を聞くだけだ…)
と自分自身に言い聞かせると、
喫茶店に向かうべく踵を返して
出口へと向かった。