今度はあなたからプロポーズして
何もない時代じゃったからな。
皆が自分の夢に
期待を膨らませることが
唯一の生きる糧じゃった。
じゃが、春江の話を聞く度に
わしの心には、
常に立場の違いというものが
引っ掛かっていた。
片や何もない男と
片やすべてを持ったお嬢様なのだ
卑屈になるなと言うかもしれんが
当時のわしに
すべてを受け入れろというのは
到底、不可能な話だった。
だが、その差を一時でも忘れさせ
てくれたのも、
他ならぬ春江の無邪気な笑顔じゃ
った。