その音色はどこまでも美しく
「汚いじゃないか。あまりここを汚さないでくれよ」

「すいません、……じゃなくてですね」

反射的に謝ってしまったが、そうじゃないだろと自分に言い聞かせる。

「今の話しを聞いて、どうやったらそんな結論になるんですか?」

そんな要素はカケラ程もない話しだったと思うが。

「子供は好きな相手に構ってもらいたくて意地悪するだろう。それと一緒さ」

頼子さんは盛大な誤解をしていらっしゃる。

俺があいつをいじるのは、反応を見て楽しむためだ。

それに十何年と一緒に過ごしてきた相手を、今さら異性として見ろと言うほうがおかしいだろう。

「あまり恐ろしいことを言わないで下さい。命がいくつあっても足りませんよ」

だが、頼子さんは相変わらず笑みを浮かべたまま、優しい眼差しを向けてくる。

その瞳を直視できなくて、思わず目を逸らした。

「どうしてそう思うんだい?」

諭すような柔らかい口調。

俺の心の中を隅々まで見透かされているような錯覚に陥る。
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