愛LOVE…
「綾峰さん……とりあえずここじゃアレだから、えっと、あっち行こうか」

加村君は困った顔一つせずにあたしの手を引き、近くの空き教室に連れてってくれた。

もちろん名前の通りこの教室には誰もいなかった。

「んぐっ……はぁ、加村君ごめんね……」

あたしは一番前の席に座り、机に肘をつき両手で顔を覆い隠すと、まず彼に謝った。

「いや、俺は全然いいんだけど……綾峰さん、マジどうしたの?」

「う、ん。……別に大した事じゃないんだけど、ね」

あたしは少し落ち着くと、顔から手を離し作り笑顔でそう言った。

けど、

「大した事ないって、そんなわけないでしょ。現に綾峰さん泣いてるし……、もしかして、直哉が原因?」

そう言われた瞬間、ピクッと顔が引きつってしまった。
そしてそれは彼も見逃さなかったようだ。

「やっぱ、そうなんだね」

「……」

上目遣いでチラッと加村君を盗み見たあたしは、口調は冷静だったが、険しい顔つきをしている彼に気づき、何も言えなくなってしまった。
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