社長の溺愛
広い車内の中で聴こえるのはアップテンポな曲だけ
目を瞑り、じっくりと時間が経つのを待つ
早く、早く近くに
自由を与えてあげたい
瞳に光を写してほしい
なぁ、つーちゃん
俺はこれから君じゃないひとを迎えにいくよ
約束を守れない俺を、どうか許さないでほしい
怒りでもいい、君のなかに記憶として存在していたいから
つーちゃんは今、どこで何をしている?
あの頃みたいに笑えてるか?
君の笑顔は俺の笑顔になる
誰か、俺じゃないひとが迎えにきたとしても
笑っていてほしい
ごめんな、つーちゃん
俺は、君を忘れないから
「……ん、慎!着いたぞ?」
気がつくと車は停まっていて、幸弘は後部座席のドアを開けてくれていた
「考え事は後にしとけ?」
「ああ、わかってるよ」
微笑まじりに返すと「どうだかな~」といつもの調子で返される
「準備は?」
車をでて目当ての建物に向かう途中、幸弘に確認をする
「完璧すぎて隙がほしいくらいだよ」
「そうか、それは良かった」
笑顔で呟いて目の前に建つビルに足を踏み入れた