社長の溺愛
ガタッ…ーーー
やっと起きたか…
家に帰ってきて翼を寝室に寝かせた俺は、翼がいつ起きても不安にならないようにとリビングにいた
今は夜の11時、彼女はずいぶん寝ていた
起きたことを確認しようと寝室に入ると、ベッドにいるはずの翼がフローリングに座り込んでいた
俺が入ってきたことに気がつくと
「慎…さん?」
と寝起きだからか少し人間味を帯びた声をかけられた
「慎でいいよ、よく眠れた?」
彼女は小さく頷いて
「次の家…」
と辺りを見渡した
「なんで床に座ってんの?」
最初に感じた疑問を聞いてみると、翼は酷くキツイ一言を発した
「いつも“誰か”と一緒に寝てたから、1人なことに驚いたの」
その『誰か』とは代わり行く飼い主を指していて、『いつも』という現実は俺に突き刺さった
翼は常にレンタルされていたのだ
そのたびに何をされていたのだろうか…
俺は目の前で座り込む仔猫に手を伸ばし、優しく引き寄せた
そして、なるべく分かりやすく俺はレンタルではないと説明した
「俺はレンタルじゃないから、もう次のひともいないし、次の家もない、ずっとここにいていい」
翼は一瞬だけピクッと肩を震わせると
「やっと…買われたんだ…」
酷く冷めたセリフを口にした
彼女がどう受け止めたのかは分からないが、俺には安心したようにも見えた
こうして翼との生活が始まった