社長の溺愛
本当に少しの間だった
時間にすれば10分あるかないかという短い間だった
ビニール袋を両手にマンションへと歩みを進めた幸弘
そこまではいたって普通だった
部屋の前まできて鍵を開ける
ガチャ……
何かが違う、瞬時に感じ取ったものは間違ってなかった
玄関にあった女性ものの靴がない
(おいおい…まじかよ…)
ガタガタと慌ただしく、買ってきたものもそのままに寝室に駆け込んだ
(いない……)
ベッドは綺麗に整えられていて、人がいる様子はまったくない
キッチン、バスルーム、トイレ、テラス、慎の部屋まで探した
家中を探し回って残ったのは翼の部屋
数少ない彼女の持ち物が置いてある部屋だ
ゆっくりとドアノブを捻る
カチャ……
白で統一された部屋が広がる
……はずだった
幸弘の目に映ったのはただの部屋だった
白い壁に備え付けのクローゼット
あったはずの小物も、服も、学校用具も
全部なくなっていて
がらんとした部屋だった