社長の溺愛



慣れていないのか南月はそれ以上の言葉を発さずにじっと俺を見た


しかし、ポツリと


「次泣かせたら、拐うから」



なにやらとてつもなく物騒なことだけを言い残し、若干の不機嫌さを引きずって奥へと姿を消した



「南月は素直じゃないから、すいません」


「いえ、あのくらいが丁度いいですよ、高校生なんて」


「そうですかね」


「そうですよ」



大人の引き際がひょっこり姿を表す


そろそろここを出る時らしい


空気が違うものへと変わったのはきっと葛城さんの気遣いだろう


「挨拶なんか帰り際でいいですから、ゆっくり観光でもしてください」



綺麗に飾り付けられた花を花瓶ごと手に取った葛城さんが長い足をカウンター内から露にする


コツコツと木の板に靴音を響かせるのにつられて、俺と翼も立ち上がる



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