社長の溺愛
遠くのほうにいる
横断歩道の向かい側
俺は動けないでいた
信号が色を変えて人々を促す
『異質』とでも言おうか…
明らかに1人、まるで一輪の花のような少女がいる
いや、少女と言うには不釣り合いな表現だが、実際にその花はブレザー型の制服を身に付けている
俺の視界いっぱいにスローモーションで写る
徐々に近づくその距離
信号が点滅を始める少し前、彼女はこちら側に渡り歩みを進める
自分の身体は無意識に動き始める
全身に稲妻が走ったような衝撃だ
俺は迷わず走り出した
「ん…?慎?どこに…ーーー」
幸弘の声も耳に入らない
走って、走って…
あと少し…ーーー
チリンチリンー…!
彼女と俺の間を一台の自転車がすり抜けた
はっとしたときは既に遅く、彼女は人だかりに飲まれていった
まるで地に根っこが生えたようにしてその場からうごけなかった
一目惚れ…ーーー
単純な動機かもしれない
けれど、俺には確かに芽生えていた
微かな恋心が
足元の手がかりを教えてくれたんだから