社長の溺愛
その場所に呆然と立ち尽くしていた
「慎!何してんだよ…!」
幸弘の荒れた息づかいと言葉によって現実に引き戻された
「はぁ、はぁ…ったく何なんだよお前は…」
肩で息をして乱れた身なりを整える幸弘
「………悪ぃ…幸弘…」
視線も変えずに言うだけの俺に眉を寄せる
「どうし…あ…?何だこれ…」
腰を屈めた幸弘は俺の足元に手を伸ばし、それを手にとる
「生徒…手帳か…?」
ぶつぶつと何かを呟いているが、俺にはノイズにしか聞こえない
「おい慎、この子…」
「……何だよ」
「この子って成瀬コーポレーションの娘じゃないっけ…?」
何を言ってるのか分からない、とりあえず俺は、冷静を保つように自分に言い聞かせた
「…何がどうしたって?」
幸弘は「だから…!」と手のひらサイズの手帳を俺の前につきだした
「…………!」
手のひらサイズのそれはどこかの学校の生徒手帳らしく、ご丁寧に学校名、組、名前までびっしりと書かれている
そして、それらの文字の横には小さな写真が貼ってある
それは、俺の鼓動を早くさせた
この手帳の持ち主の顔だけの写真には
一瞬にして俺のなかに入り込み、一瞬にして消えた
彼女が写っていたから
鼓動は加速する