社長の溺愛
全ての話を聞いて、俺はゆっくりと翼の言葉を思い出した
それは翼と初めて会った日に呟いた、哀しい言葉
『やっと…買われたんだ…』
それは翼の率直な気持ちだったと思う
でも、そのときに見せた安堵の表情は紛れもなく本心だったと思う
『買われた』という言葉には『救われた』という意味があったんだと
10年間耐えてきたレンタル生活からやっと抜け出せる
今なら翼の言葉の意味、表情の意味が分かる
さっきまで話していた遼は涙を目に浮かべて、血が出るんじゃないかと思うほど唇を噛んでいる
「すいませんっ…!俺が…俺が…」
口を開くと、我慢していた嗚咽が言葉を邪魔する
「遼君は悪くない…宮下吉雄が全ての引き金だ」
「でっ…も…くっ…!」
「翼だってわかってるんだろう。ただ君を見た瞬間に思い出してしまったんだろう…」
翼が感じてた恐怖は想像も出来ない
それを簡単に解釈は出来ないが、翼は冷静に状況を判断することができる
誰かのことをよく知らずに怯えたりしないだろ――……
それにしても
宮下吉雄という男は許せない…
ここは会社だ
取り乱すわけにはいかない
怒りを静めよう…