社長の溺愛
「お前の…名前…呼んでんだよ!」
「俺の?」
苦しそうに顔を歪めて目一杯空気を吐き出す幸弘
「ああ!…翼ちゃんがお前を呼びながら―――……
泣いてんだよっ!!!」
泣いてんだよ…
泣いてんだよ……
泣いてんだよ!!!
俺の足は意思とは関係なく走り出していた
エレベーターなんか使ってる暇なんか無い
社員専用の階段を何段も飛ばして駆け巡る
そこら中にいた社員が驚きの声を上げる
翼…!
翼!!!
なんで社長室が最上階にあんだよ!
脚が重さを感じ始める
ダンッ…
最後の段を踏み締めて、既に呼吸がままならないのも気にしないで更にスピードを上げて扉を開けた
バンッ!!!
けたたましく鳴る扉を背に、翼の姿を探す
ガツガツと大理石に傷でも付く勢いで足を進める
「翼!つば―――……!」
だだっ広い社長室の隅に
自分の肩を抱いて
震える彼女を
見つけた―――……