hb-ふたりで描いた笑顔-
駅の向こう側に行くには、踏切を渡るより駅を抜けていった方が早い。それは地元の人間なら当然知っている。だから、幸男たちも駅の階段を昇った。一段飛ばしで階段を上る幸男。そのおかげもあって、すぐに改札口の側まで来た。
「えっ。」
幸男は目を丸くした。信じられなかった。信じられないけど、改札から出てきたのは間違いなくそうだった。幸男の母親だ。
「お母さんっ。」
幸男は大声で呼んだ。しかし、母親と思われた人物は振り向く事なく行ってしまう。
「お母さんっ。」
改札から出てくる人の間を縫いながら、その背中を追う。しかし、あまりの人の多さになかなか追いつけない。
「お母さんっ、お母さんっ・・・。」
何度も繰り返し叫ぶ。しかし、届かない。
「待ってよ。待ってよ。お母さんっ・・・。」
結局見失ってしまった。
< 22 / 61 >

この作品をシェア

pagetop