hb-ふたりで描いた笑顔-
駅の改札の前で、幸男は体育座りをした。何人か、幸男の事を気にかけて話しかけてきた。笑顔でそれをかわし、幸男は座り続け母親を待ち続けた。
<お母さん・・・。僕に気づいてよ。お母さん・・・。>
街はオレンジに染まる。ちょうど、母親を見かけた時間だ。幸男は期待に胸を膨らませた。
<きっと来るよね?きっと来るよね?・・・>
何度も、何度も、そうなりますようにと願った。願いが通じたのだろうか。その時、幸男の後ろから声が聞こえた。
「幸男、何してるの?」
「お母さ・・・。」
そこにいたのは叔母だった。どうしようもないくらいに、幸男は情けない顔になった。
「叔母さんか・・・。」
「叔母さんかってご挨拶だね。もっと喜んでくれていいだろ?今日は幸男の好きな大野屋のメンチカツ買ってきたのに。」
そう言ってビニール袋を、幸男の前に差し出した。なんともいい匂いがする。胃が刺激されお腹がグルルと音を立てた。
「幸男のお腹は正直だね。さぁ、帰って晩ご飯にしようか?」
笑った。てっきりメンチカツにつられて、幸男も笑ってくれるものだと思っていた。それなのに幸男は反抗した。
「やだ。」
「やだって。もうすぐ夜になっちゃうよ。子供がそんな遅くまで、ひとりで出歩いちゃダメだろ?さぁ、帰ろう。」
幸男の手を引いた。すると、幸男はしゃがみ込んだ。
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