hb-ふたりで描いた笑顔-
「やだったら、やだ。」
「どうして?」
理由はわかっていた。でも、幸男を引き取ってから約二年、少しは本当の親子に近づけたのではないかと思っていた。それなのに母親に似ていると言われる誰かに、幸男は簡単になびいてしまった。それが哀しくてしかたなかった。
「お母さんを待つんだよっ。」
「幸男が見たのは、お母さんじゃないって言ったでしょ。なんでわからないの?」
「お母さんだよ。お母さんに決まっているよっ。」
段々とふたりの声は大きくなってくる。通行人の視線が集まりだした。しかし、止まらない。それぞれの思いの強さが止まることを許さない。
そこに割って入る者がいた。
「落ち着いて。みんな驚いてますよ。」
そう言われたふたりが驚いた。声をかけてきたのは、どう見ても幸男の母親だ。行方不明になった幸男の母親に間違いなかった。
「お母さん・・・。」
「姉さん・・・。」
ふたりにマジマジと見つめられ、母親と思われる女性は頬を赤らめた。
「な、なんですか?」
叔母は気持ちを落ち着かせてから聞いた。
「つかぬ事をお伺いしますが・・・お名前は?」
「な、名前ですか?本郷と言いますが・・・。」
「下の名前は?」
「美喜ですが・・・。」
間違いない。叔母は思った。
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