hb-ふたりで描いた笑顔-
家族だった
次の日から、美喜は幸男の家に来るようになった。
「こんばんは。」
玄関まで迎えに来た幸男に挨拶した。
「こんばんは。」
幸男は昨日の事もあり微妙な距離感を保っていた。母親であるが、まるで母親でないような、だけど甘えたくて仕方がない、自分でもどうしていいのかわからなくなっていた。
カレーの匂いがしてきた。美喜は幼い頃からカレーが好きだった。それは息子である幸男にも受け継がれている。そんな長年の歴史がある好物なら、何かを思い出すかもしれない。そう考えての事だ。
「いい匂いね。」
「うん。」
幸男はドキッとした。今の「いい匂いね。」は、昔の母親そのままだ。記憶が戻ってきたのかもしれないと思った。だから、幸男は訊いた。
「お母さん?」
返事まで、少し間があった。
「あ、私の事か・・・。何?」
記憶は戻っていなかった。なまじ記憶が戻ったと思っただけに、ショックは大きかった。
「ううん、何でもないよ。それより早くご飯食べようよ。」
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