hb-ふたりで描いた笑顔-
一番はじめに食べ終わったのは幸男だった。スプーンを勢いよく置いた。金属の響く音が虚しかった。
「ごちそうさま。」
「・・・もう食べ終わったんだ。幸男君って、食べるの早いんだね。」
幸男は落ち込んだ。昔のように、“幸男”と呼んで欲しかったのだ。
「どうしたの?」
美喜はまるで気づかない。
「姉さん・・・。」
美優は気がついていた。けど、それをみなまで言うのは、かえって一緒にいる幸男を傷つけてしまう。なんとか、自分で気がついてもらえるよう、それとなく誘導した。が、無駄だった。
「はぁ・・・。」
記憶がないと、こうまで意思の疎通がかなわないものだろうか。美優は悩んだ。しかし、どうする事も出来なかった。
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