hb-ふたりで描いた笑顔-
心の糸はもう切れる寸前だった。
交差点を過ぎる無数の車。美喜は幸男を迎えに行こうと、財布も持たずに家を出ていた。ぼんやりと車を眺めていた。すると、壊れかけの心が夫の幻を見せたのだろう。車の先に夫の姿を見つけた。
「啓ちゃん・・・。」
夫は死んでいる。なのに、目の前には夫の姿が見える。あり得る話ではない。しかし、美喜の中ではそう理解出来なかった。夫が生き返った。そして自分を迎えに来てくれた。そうとしか考えられなかった。
赤信号の交差点へ、一歩右足を踏み出した。
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