アコーディオン弾きの憂鬱
第一章 睡魔
路地裏に捨てられている蛇の目傘を尻目に、私は足を速めていた。
日課に間に合わないなんて絶対に嫌だからだ。
私は県内でも市内でも目立たない高校に通う女子高生で、来年に就職を控えている。
日本人らしく染めていない黒髪を揺らし、路地を抜けた。
間に合った!明日も素敵な一日になる。そう感じさせる私の希望。
ベンチに座って本を読むフリをしながらじっと見つめる。
ふわふわした黒髪は私と同じで、でも私より服のセンスは今時の高校生って感じがする彼。
彼と同じ黒髪を持っている自分が好き。
彼とお揃いのシルバーアクセサリーが夕焼けに照らされキラキラと光っている。彼と同じシルバーアクセサリーが付いているカバンが好き。
しばらく携帯電話をいじっていた彼だけど、私を見つけたら嬉しそうにベンチから立ち上がった。
私は本から顔を上げてにこりと微笑んだけど、彼がそれに気付いたか分からない。
彼は私と腕を組んで広場を後にしたから。
もう一人の私は幸せそうでいいな。私なんて目立たない空気みたいな存在なのに。
神様、これって理不尽じゃない?同じ私なのにこんなに違うなんて。
そうこころのなかで呟いてから気づいた。