アコーディオン弾きの憂鬱
「いい加減にするのは君の方だ。君は母親似だね、過剰なまでの執着心。そんなんだから夫に逃げられるんだ」
いまこの人、なんて言った?私がお母さんに似てる?この人、お母さんを知ってるの?
「僕が昔忠告してやったのに…まったく、親子揃ってバカだとは思わなかったよ。飯田桜さん?」
「どうして私の名前を知ってるの?」
「お母さんは飯田春だろう?ヒステリックな女だったよ。キーキー五月蝿いったらありゃしない」
お母さんの悪口を言われたことは許せなかったけど、それより疑問の方が多かった。
「…名前は?」
「名前を聞くときには自分から名乗りな」
「私の名前を知ってたじゃない」
「礼儀は礼儀だよ」
「…飯田桜です」
「知ってるよ」
「分かってます…ほら、名乗りましたよ、教えてください」
命令されるのは嫌いなんだ。と笑うこの人に怒りが沸いた、なんなんだこの人は。
なんでお母さんを知ってるのかとか、何者なのかとか聞きたい事が山ほどある。なのに聞いても絶対に答えないんだろう、この調子なら。
「何歳なんですか?」
「君は?」
「私の事はいいから、あなたのことを教えてくださ…」
い。そう言い切れなかった。
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