眠りの聲(こえ)―宗久シリーズ小咄2―
1
「……あなた、それは何ですの?」
「…………すいません」
帰宅早々、僕は妻に謝罪している。
玄関前、靴さえ脱げない状況。
目の前には朝同様、綺麗に着物を着こなした妻の姿。
帰宅した夫に三つ指を付き、玄関にて出迎える妻の姿。
朝と違う所は、僕を見上げる妻の視線が痛い…と言う事だけだ。
疲れているのに。
腹も空いている。
早く着替えて夕食を食べたい。
脳内は、そんな欲求に支配されていた。
辛い心理状態の中、妻に謝罪をしている。
原因は、僕の手に下がる紙袋だ。
「私、去年あなたにお伝えしましたわよね?」
「はい」
聞きましたとも。
「でしたら、私が言いたい事も、おわかりになる?」
「………はい」
苦しい。
硬直した、妻の表情。
怒鳴らない、落ち着いた口調が、更に僕を困惑に誘う。
沈黙する僕を、正座の姿勢で見上げる妻。
淡い椿色の唇の右端が、微妙に引き攣っている。
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「…………すいません」
帰宅早々、僕は妻に謝罪している。
玄関前、靴さえ脱げない状況。
目の前には朝同様、綺麗に着物を着こなした妻の姿。
帰宅した夫に三つ指を付き、玄関にて出迎える妻の姿。
朝と違う所は、僕を見上げる妻の視線が痛い…と言う事だけだ。
疲れているのに。
腹も空いている。
早く着替えて夕食を食べたい。
脳内は、そんな欲求に支配されていた。
辛い心理状態の中、妻に謝罪をしている。
原因は、僕の手に下がる紙袋だ。
「私、去年あなたにお伝えしましたわよね?」
「はい」
聞きましたとも。
「でしたら、私が言いたい事も、おわかりになる?」
「………はい」
苦しい。
硬直した、妻の表情。
怒鳴らない、落ち着いた口調が、更に僕を困惑に誘う。
沈黙する僕を、正座の姿勢で見上げる妻。
淡い椿色の唇の右端が、微妙に引き攣っている。
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