眠りの聲(こえ)―宗久シリーズ小咄2―
「先生も散歩?」



問われ、思わず苦笑いを返す。



「まぁ、そんな所かな」






妻が恐くて逃げて来た、等とは言えない。






ふぅんとうなづき、八坂は細い足首を回している。










八坂と話すのは、久しぶりだった。




それもその筈、八坂は半年前から学校には来ていない。








原因は多分……八坂自身も理解しているだろうと思う。



理解しているからこそ動けない、閉ざしたい。


人は皆、そういう葛藤の経験はある。








だからあえて、僕は何も言わなかった。





いや、伝えたとしても、届かないと気付いていた。



八坂の心は、意識は、全ての可能性を否定していたからだ。










だが、今……こうしてここで、こんな形で会ってしまったからには、伝えるべきなのだ。




僕はいつも、そういう目に見えない導きの糸に引かれている。




自分の能力に気付いた時から、それはいつも、息をひそめて僕の身近に在った。






だから、僕は理解している。





動く事ができるからこそ、伝えるべきなのだから。






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