眠りの聲(こえ)―宗久シリーズ小咄2―
隣に座る八坂を見つめる。



両足を草の上に投げ出し、ぼんやりと、月が映る川面を眺める八坂。




揺れている足先、靴の爪先が時折ぶつかり合い、コツンと微かな音を立てる。









………八坂に、聞こえるだろうか。



教師としてではなく、人間としての僕の聲が。










風が、桜の細い枝を揺らした。




身震いをした僕は、暖を求めてポケットをまさぐった。





かさりと、何かが指先に触れる。




ああ、そうだ。








「八坂」

「何?」

「一緒にどうかな?」

「それ、何?」

「チョコレート」






ポケットに入れて来たチョコを差し出した僕を、八坂は笑った。





「先生、チョコなんて持ってるの?」

「貰ったんだよ。今日は2月14日だから」

「あ!バレンタイン!」








忘れていたと、八坂は瞳を細めた。







日付の感覚も無いのだろう。






当然か。








「いいの?ホントなら、私があげる日なのに」

「いいんだ。少しでも減らさないと瑞江さんに………」






………怒られる。





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