眠りの聲(こえ)―宗久シリーズ小咄2―
妻は去年、言った。


来年は控えて下さいね、と。




控えての意味を把握できていなかった僕は、去年より少なければいいのかな?と思った。





だが、妻の控えては、貰ってくるなの意味であったらしい。



帰宅時、怒る妻を見て、初めてそれを理解した僕も僕なのだが。






それならそうと言ってくれたら…………隠しておいたのに。





隠すという邪念がある限り、妻は見抜きそうだが。


妻の勘の良さは、前世から引き継いだ感受性の高さからきているに違いない。







そんな事を考えながら、トリュフを口に運ぶ。


甘い筈のそれは、今の僕には少し苦く感じた。








「先生、今年もたくさん貰ったの?チョコ」

「うん、まぁ……みんながせっかく用意してくれた物だしね」





そうかと、八坂はうつむいた。



影がかかる物憂げな表情に、意味を与えられている気がした。




八坂の、心の聲……。







「……みんなは、元気?」

「元気すぎて、扱いに困るくらいだよ」






八坂は、笑う。



だが、明らかにその笑顔には、苦しさが滲み出ている。



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